=『新世紀エヴァンゲリオン』オリジナルサウンドトラック=
(鷺巣詩郎によるライナーより抜粋)
1995年3月12日を回顧する
わが国の音楽業界にとって歴史的価値が高い、今はなき名門音楽スタジオを3つ挙げよと問われたら、こう答える。
「日本コロムビア赤坂スタジオ、CBSソニー六本木スタジオ、キング音羽スタジオ」。
世界的にも、名門スタジオは近年どんどん閉鎖されている。
理由は簡単で「もう商売が成り立たないから」に他ならない。
だが、この東京の3つのスタジオが閉鎖されたのは90-00年代。
そう、日本の音楽業界が一番景気の良かった時期に、すでに閉鎖されてしまっていたのだ。
他メディアでも同じたとえ話をしたが、
スペインのコルドバにある「メスキータ」(イスラムのモスク)が、
かつてキリスト教徒たちにより教会に建て直されようとした時、
イスラム教徒はこう諌めたという「今あなたが壊そうとしているものは『どこにも無いもの』、
今あなたが造ろうとしているのは『どこにでも有るもの』」と。
その忠告のおかげで、人類は世界遺産メスキータを今なお共有し続けられるのだ。
日本は地震国だから仕方ないという理由もあろう。未曾有のバブル期を経た地上げの疲弊もあろう。
しかし、せめて違った保存方法やアイデアを提唱する者さえ現れなかったことは大いに悔やまれる。
3つのスタジオで録音された音源は山ほどあろうが、
録音場所の記載がすべての音源に明記されているわけではないし、
音源だけでは歴史は点のままで線にはならない。
いつまでも閉鎖を嘆くよりは、
そのスタジオで仕事をしていた我々のような人間が具体的に記述を残すほうが、今となっては重要だ。
70年代は○○時代、80年代は△△時代…との流行史も必要だが、
音楽的、音響的な観点だけは、内側から細かく綴った記録に勝る歴史資料はないのだから。
1957年生まれの鷺巣が、毎日のように都内すべての音楽スタジオを巡って廻る、
この仕事を始めたのは1976年ぐらいだから、75年以前の事実は語れない。
ただ、過去を知りつくした第一線からの伝聞ならば、これまた毎日のように共有していた。
なにせ70-80年代は、スタジオに「サロン文化」があった。
午前中のセッションに集まったミュージシャン、エンジニアが午後には別スタジオに移動し、
また夜に違うセッションで戻ってくるという多忙集散が日常茶飯事だったのだ。
つまり当時の音楽スタジオは、あらゆる決定が成される業界の中枢機能を果たすと同時に、
重要な情報交換の場所でもあった。
SNSなどあろう筈はなく、留守番電話もまだ無い時代にあって、
多様な才能、競合相手、主役も裏方も、皆がひしめき、情報が飛び交う空間…調整室も、ロビーも、
とにかくスタジオ内はどこもかしこも間違いなくサロンと化していた。
共通していたのは、独立した建物ではなく共有ビル内
(コロムビアは自社ビル、ソニーは雑居ビル、キングは講談社ビル)にあり、
第1第2スタジオなど複数の部屋を持ち、かならず大編成オーケストラ録音が可能な大部屋を備えていたこと。
都内一等地ゆえ回転率が良くないと成り立たないビジネスだが、
コロムビアとキングは自社(関連)ビルで、スタジオも社内アーティストの使用に限られた。
それでも回収できていたのだから良き時代だ。
六本木ソニースタジオは外貸しで他社アーティストにも門戸は開かれていたし、
地下には(ソニーとは無関係だが)ライヴハウス「六本木ピットイン」もありライヴが収録可能だった。
ちなみに1978年ソニーは信濃町にスタジオ独立ビルも完成させ、自社アーティスト専用スタジオとした(すでに閉鎖)。
我々は「六ソ(ろくそ)」「信ソ(しなそ)」と呼びわけて往来したが、
よく冗談で「乃木坂には引っ越すなよ『乃木ソ(のぎそ=のぐそ)』になっちゃうから」と笑ってたら、
2001年にソニーは自社ビル統合スタジオを本当に乃木坂に造り、口の悪いミュージシャンたちの溜飲を下げた。
残念ながらスタジオ・ミュージシャンの仕事が激減する90年代後半から、
しだいにサロン機能は自然消滅していき、そんな冗談さえ聞かれなくなってしまった。
(続きは、ぜひ2枚組LP中面をお読みください。なんと、この6倍以上で総量およそ10,000字の長文ライナーです!)
(鷺巣詩郎によるライナーより抜粋)
1995年3月12日を回顧する
わが国の音楽業界にとって歴史的価値が高い、今はなき名門音楽スタジオを3つ挙げよと問われたら、こう答える。
「日本コロムビア赤坂スタジオ、CBSソニー六本木スタジオ、キング音羽スタジオ」。
世界的にも、名門スタジオは近年どんどん閉鎖されている。
理由は簡単で「もう商売が成り立たないから」に他ならない。
だが、この東京の3つのスタジオが閉鎖されたのは90-00年代。
そう、日本の音楽業界が一番景気の良かった時期に、すでに閉鎖されてしまっていたのだ。
他メディアでも同じたとえ話をしたが、
スペインのコルドバにある「メスキータ」(イスラムのモスク)が、
かつてキリスト教徒たちにより教会に建て直されようとした時、
イスラム教徒はこう諌めたという「今あなたが壊そうとしているものは『どこにも無いもの』、
今あなたが造ろうとしているのは『どこにでも有るもの』」と。
その忠告のおかげで、人類は世界遺産メスキータを今なお共有し続けられるのだ。
日本は地震国だから仕方ないという理由もあろう。未曾有のバブル期を経た地上げの疲弊もあろう。
しかし、せめて違った保存方法やアイデアを提唱する者さえ現れなかったことは大いに悔やまれる。
3つのスタジオで録音された音源は山ほどあろうが、
録音場所の記載がすべての音源に明記されているわけではないし、
音源だけでは歴史は点のままで線にはならない。
いつまでも閉鎖を嘆くよりは、
そのスタジオで仕事をしていた我々のような人間が具体的に記述を残すほうが、今となっては重要だ。
70年代は○○時代、80年代は△△時代…との流行史も必要だが、
音楽的、音響的な観点だけは、内側から細かく綴った記録に勝る歴史資料はないのだから。
1957年生まれの鷺巣が、毎日のように都内すべての音楽スタジオを巡って廻る、
この仕事を始めたのは1976年ぐらいだから、75年以前の事実は語れない。
ただ、過去を知りつくした第一線からの伝聞ならば、これまた毎日のように共有していた。
なにせ70-80年代は、スタジオに「サロン文化」があった。
午前中のセッションに集まったミュージシャン、エンジニアが午後には別スタジオに移動し、
また夜に違うセッションで戻ってくるという多忙集散が日常茶飯事だったのだ。
つまり当時の音楽スタジオは、あらゆる決定が成される業界の中枢機能を果たすと同時に、
重要な情報交換の場所でもあった。
SNSなどあろう筈はなく、留守番電話もまだ無い時代にあって、
多様な才能、競合相手、主役も裏方も、皆がひしめき、情報が飛び交う空間…調整室も、ロビーも、
とにかくスタジオ内はどこもかしこも間違いなくサロンと化していた。
共通していたのは、独立した建物ではなく共有ビル内
(コロムビアは自社ビル、ソニーは雑居ビル、キングは講談社ビル)にあり、
第1第2スタジオなど複数の部屋を持ち、かならず大編成オーケストラ録音が可能な大部屋を備えていたこと。
都内一等地ゆえ回転率が良くないと成り立たないビジネスだが、
コロムビアとキングは自社(関連)ビルで、スタジオも社内アーティストの使用に限られた。
それでも回収できていたのだから良き時代だ。
六本木ソニースタジオは外貸しで他社アーティストにも門戸は開かれていたし、
地下には(ソニーとは無関係だが)ライヴハウス「六本木ピットイン」もありライヴが収録可能だった。
ちなみに1978年ソニーは信濃町にスタジオ独立ビルも完成させ、自社アーティスト専用スタジオとした(すでに閉鎖)。
我々は「六ソ(ろくそ)」「信ソ(しなそ)」と呼びわけて往来したが、
よく冗談で「乃木坂には引っ越すなよ『乃木ソ(のぎそ=のぐそ)』になっちゃうから」と笑ってたら、
2001年にソニーは自社ビル統合スタジオを本当に乃木坂に造り、口の悪いミュージシャンたちの溜飲を下げた。
残念ながらスタジオ・ミュージシャンの仕事が激減する90年代後半から、
しだいにサロン機能は自然消滅していき、そんな冗談さえ聞かれなくなってしまった。
(続きは、ぜひ2枚組LP中面をお読みください。なんと、この6倍以上で総量およそ10,000字の長文ライナーです!)
=『進撃の巨人』オリジナル・サウンドトラック=
鷺巣詩郎による各曲解説(ライナーより抜粋)
01 Le Soleil d'Or
今作を通し鳴っているオーケストラは「The London Studio Orchestra」。
ハリウッドを頂点とする映画音楽界において、まごうことなき世界一のオケ。
Isobel Griffithsによって招集され、Perry Montague-Mason をリーダーとする面々は、
その名が列挙されないブロックバスタ(ハリウッド大作)を探すほうが困難なほどだ。
編曲の天野正道、指揮者 Nick Ingman、The London Studio Orchestra、
彼等は皆、鷺巣の音楽に絶対欠かせない、長年の固定メンバーである。
02 War Song
合唱詞は、スコットランドが誇る詩人 Mike Wyzgowski のペンによるもの。
四半世紀にわたり、鷺巣と「詞曲」パートナーシップ関係にあり、あらゆる(音楽)物語の代弁者でもある。
アビーロード大部屋にてオケを録音したのは Jonathan Allen。
『レ・ミゼラブル』でオスカーを受賞したエンジニア、プロデューサー。
オーケストラ、合唱団、編曲家、指揮者、作詞家、エンジニア、
すべてのスタッフが揃って、はじめて鷺巣の音楽は成り立つ。
この素晴らしい仲間たちに、今回もまた深謝!!
03 Masterplan, Metalopera
オーケストラを引き裂くように君臨するリズムを操るのは CHOKKAKU。
同業者でありながら、鷺巣は「大編成」派、CHOKKAKU は「Guitar支配によるバキバキのリズム」派。
ゆえに「最強の同居」が、ここに成立した。題して「メタル=オペラ」。
04 God have Mercy
定番の言辞「God bless you」「God have Mercy」。
ことに前者は、われわれ日本人にもお馴染みだが「なぜ三人称なのに動詞変化しないのか?」と
疑問を持たれた方もいるだろう。
25年前、ゴスペル・クワイアの面々から別れ際に「God bless you!」と挨拶された鷺巣は、意を決してたずねた。
「何言ってんのよ『(May) God bless you』でしょ」
はいゴメンナサイ。「神様には人称が無いのかな」なんて勘ぐったワタシが馬鹿でした。
05 Rise up, Rhythmetal
スーパー・ヒットメーカー CHOKKAKU!!
チャートを制すアレンジャーほどアップデートされてしまう現実…
だからこそ、そこにとどまる「勇気、実績、実力」すべて備えた者が賞賛される。
がしかし、大型台風が毎年くるように、チャートの厳しさとは、その強風ド真ん中に立つ者にしか理解しがたい。
CHOKKAKU というアレンジャーの「超絶っぷり」「凄み」は、鷺巣には痛いほど良くわかる。
今回『-metal-』と前後タイトルされるすべてのトラック群における、
CHOKKAKU による超絶ものスゴい仕事っぷりは、際立っている。
06 The Original Sin
クラシックのように演奏技術を磨きに磨いて成り立つ分野において、陥りやすいのが、大衆との認識「乖離」だ。
たとえばヴァイオリニストは、目を閉じて次々と難関ハーモニクスを決めるより、
和音をジャンと弾きながら見栄をきってポーズしたほうが、観客にはウケる。
もちろん同業者や大家からの評価も大切だが、客が入って湧かなければ打切られるのは映画ばかりではなかろう。
クラシックなど知らぬ層に「いかにもクラシック」と感じさせるハッタリ、
そこから飛躍して様式を撹乱する…これは映画音楽という分野においては、
必須ともいうべき表現なのかもしれない。
07 Boule de cristal, piano
ピアニスト宮城純子とは、もうかれこれ40年近くも一緒に仕事をしている。
鷺巣が手がける映像音楽でピアノを弾いているのは、ほとんどが彼女だ。
それほど彼女のピアノは、あらゆる映像に見事にハマる。
まさしく鷺巣と映像との媒体的な存在だ。
長い付合いながら、彼女が「平成ガメラ特撮」の大ファンであることを最近はじめて知った。
そこで「ヱヴァQ」打上げ会場にて、遅ればせながら樋口真嗣監督を紹介した次第である。
08 For the dead
日本で「オーケストラ」と言えば、さも「大編成楽団」の代名詞として用いられるが、
本来オーケストラとは、場所を示す名詞。
舞台と客席の間に位置し、物語を彩る(いろどる)伴奏者たちが生演奏をする場所。
ある意味、舞台以上にめくるめく臨場感にみちた濃密空間だ(オケピットなどと呼ぶなかれ)。
たとえば我がパリで、レストランやクラブの軒先に「Orchestre」と書いてあれば、それは「生演奏アリ」の意。
3人編成であろうが、300人編成であろうが、そのすべてをオーケストラと呼ぶ。
監督および作曲家のニーズに合わせ、つねに「拡大収縮自在」なのがオーケストラという形態。
物語に寄りそうまま自由に鳴らしてこそ、オーケストラたる所以である。
(続きは、ぜひCDブックレットをお読みください。毎度おなじみのオーケストラ・スコア付きです!)
鷺巣詩郎による各曲解説(ライナーより抜粋)
01 Le Soleil d'Or
今作を通し鳴っているオーケストラは「The London Studio Orchestra」。
ハリウッドを頂点とする映画音楽界において、まごうことなき世界一のオケ。
Isobel Griffithsによって招集され、Perry Montague-Mason をリーダーとする面々は、
その名が列挙されないブロックバスタ(ハリウッド大作)を探すほうが困難なほどだ。
編曲の天野正道、指揮者 Nick Ingman、The London Studio Orchestra、
彼等は皆、鷺巣の音楽に絶対欠かせない、長年の固定メンバーである。
02 War Song
合唱詞は、スコットランドが誇る詩人 Mike Wyzgowski のペンによるもの。
四半世紀にわたり、鷺巣と「詞曲」パートナーシップ関係にあり、あらゆる(音楽)物語の代弁者でもある。
アビーロード大部屋にてオケを録音したのは Jonathan Allen。
『レ・ミゼラブル』でオスカーを受賞したエンジニア、プロデューサー。
オーケストラ、合唱団、編曲家、指揮者、作詞家、エンジニア、
すべてのスタッフが揃って、はじめて鷺巣の音楽は成り立つ。
この素晴らしい仲間たちに、今回もまた深謝!!
03 Masterplan, Metalopera
オーケストラを引き裂くように君臨するリズムを操るのは CHOKKAKU。
同業者でありながら、鷺巣は「大編成」派、CHOKKAKU は「Guitar支配によるバキバキのリズム」派。
ゆえに「最強の同居」が、ここに成立した。題して「メタル=オペラ」。
04 God have Mercy
定番の言辞「God bless you」「God have Mercy」。
ことに前者は、われわれ日本人にもお馴染みだが「なぜ三人称なのに動詞変化しないのか?」と
疑問を持たれた方もいるだろう。
25年前、ゴスペル・クワイアの面々から別れ際に「God bless you!」と挨拶された鷺巣は、意を決してたずねた。
「何言ってんのよ『(May) God bless you』でしょ」
はいゴメンナサイ。「神様には人称が無いのかな」なんて勘ぐったワタシが馬鹿でした。
05 Rise up, Rhythmetal
スーパー・ヒットメーカー CHOKKAKU!!
チャートを制すアレンジャーほどアップデートされてしまう現実…
だからこそ、そこにとどまる「勇気、実績、実力」すべて備えた者が賞賛される。
がしかし、大型台風が毎年くるように、チャートの厳しさとは、その強風ド真ん中に立つ者にしか理解しがたい。
CHOKKAKU というアレンジャーの「超絶っぷり」「凄み」は、鷺巣には痛いほど良くわかる。
今回『-metal-』と前後タイトルされるすべてのトラック群における、
CHOKKAKU による超絶ものスゴい仕事っぷりは、際立っている。
06 The Original Sin
クラシックのように演奏技術を磨きに磨いて成り立つ分野において、陥りやすいのが、大衆との認識「乖離」だ。
たとえばヴァイオリニストは、目を閉じて次々と難関ハーモニクスを決めるより、
和音をジャンと弾きながら見栄をきってポーズしたほうが、観客にはウケる。
もちろん同業者や大家からの評価も大切だが、客が入って湧かなければ打切られるのは映画ばかりではなかろう。
クラシックなど知らぬ層に「いかにもクラシック」と感じさせるハッタリ、
そこから飛躍して様式を撹乱する…これは映画音楽という分野においては、
必須ともいうべき表現なのかもしれない。
07 Boule de cristal, piano
ピアニスト宮城純子とは、もうかれこれ40年近くも一緒に仕事をしている。
鷺巣が手がける映像音楽でピアノを弾いているのは、ほとんどが彼女だ。
それほど彼女のピアノは、あらゆる映像に見事にハマる。
まさしく鷺巣と映像との媒体的な存在だ。
長い付合いながら、彼女が「平成ガメラ特撮」の大ファンであることを最近はじめて知った。
そこで「ヱヴァQ」打上げ会場にて、遅ればせながら樋口真嗣監督を紹介した次第である。
08 For the dead
日本で「オーケストラ」と言えば、さも「大編成楽団」の代名詞として用いられるが、
本来オーケストラとは、場所を示す名詞。
舞台と客席の間に位置し、物語を彩る(いろどる)伴奏者たちが生演奏をする場所。
ある意味、舞台以上にめくるめく臨場感にみちた濃密空間だ(オケピットなどと呼ぶなかれ)。
たとえば我がパリで、レストランやクラブの軒先に「Orchestre」と書いてあれば、それは「生演奏アリ」の意。
3人編成であろうが、300人編成であろうが、そのすべてをオーケストラと呼ぶ。
監督および作曲家のニーズに合わせ、つねに「拡大収縮自在」なのがオーケストラという形態。
物語に寄りそうまま自由に鳴らしてこそ、オーケストラたる所以である。
(続きは、ぜひCDブックレットをお読みください。毎度おなじみのオーケストラ・スコア付きです!)
SHIRO'S SONGBOOK 'Xpressions'
8年ぶりの『SHIRO'S SONGBOOK』シリーズ新作!!
以下は、拙文ライナーノーツからの引用ゆえ、すでにお持ちの方には不要。
いずれにしても、2枚組(約143分)!!
簡素にしたつもりの各曲解説でさえ、これだけの尺なのだから、音のほうも相当…
あらゆる意味で、長々おつきあいいただき、誠にありがとうございます!!
「序文」鷺巣詩郎
前作『SHIRO'S SONGBOOK ver7.0』(2005)以降に始めた曲が中心だが、
それ以前からの継続セッションも多く、
思い切って古くは20数年前からのセッションまで本作にまとめることにした。
結果2-3曲以外すべての録音が2013年9月まで年単位で長期におよんだ。
当然「2枚組」となり、音楽性も多岐にわたったゆえ「自己表現集」との意味合いもふくめ、
タイトルを数字ではなく『(e)Xpressions』とした。
参加ミュージシャンも凄まじい数。
これまで『SHIRO'S SONGBOOK』シリーズすべてに参加している
Loren、Hazel Fernandes、Ian Pitterは、
まず鷺巣のメロディー表現に絶対欠かせないパフォーマーだし、
もちろん他のヴォーカリスト、クワイアとも本当に長い付合いだ。
演奏者にいたっては、東京のミュージシャンは30数年ずっと一緒にやってきた連中ばかり。
The London Studio Orchestra、Warsaw Philharmonic Orchestraどちらとも、
20年以上ずっとセッションを重ねてきている。
とにかく誰も彼も皆、もっとも大切な、かけがえのない仲間たちだ。
自作1枚目の『Eyes』(1979)からずっと変わらず
「自ら唄わず、弾かず」「曲づくり、アレンジ」による自己表現を貫いてきた。
つまり彼等ミュージシャンのパフォーマンス無しには成り立たない作品であることも、
以前とまったく変わらない鷺巣詩郎の『Xpressions』の大きな特徴である。
「各曲制作録」鷺巣詩郎
This Kind of Love
劇場版『カードキャプターさくら 封印されたカード』主題歌の発展形。
じつはCHAKAが唄ったオリジナルのオケ録音は、
ちょうど『SHIRO'S SONGBOOK』2と2.5のセッション真っただ中にLondonで行われた。
スタジオで偶然'明日へのメロディ'のバッキングを耳にしたHazel (Fernandes) から
「イイ感じじゃない、これ私が唄う曲?」と尋ねられ、
否定はしたものの内心「アリかも!!」と閃いたのがコトの起こり。
後述するが、その後Hazelもアニメと縁深くなった。
録音は2010年から4年がかり。
オーケストラの録りはAbbeyroad。
いわゆるBeatles roomにおける2010年産。
Going Home_her sights_his sights
8年間ものTV放映に加え、4本の劇場版まであった『BLEACH』には、
本当に膨大な数のCue(音楽)を書いた。
その代表的Cueで、世界中のギタリストからYouTubeに投稿が絶えない、このギター曲をヴォーカライズ。
原作では高校生だが、ここで繰り広げられるのは「大人たちの家路」。
録音は2008年から。
イントロはオリジナルも弾いた松下誠。
オーケストラの編曲は「彼女側」が鷺巣で
録音は2009年Air産。
「彼側」は若き恐ろしき才能、挟間美帆による編曲で
録音は2013年Abbeyroadの大箱産だ。
なぜ、こうしてThe London Studio Orchestraの録音場所まで、わざわざ記すのか?
それは、各部屋ごとに響きが異なり、
その独特な美しさも識別できるからだ。
残響(エコー、リヴァーブ)を足すのではなく、
部屋の空気を録音してこそ本物の残響が得られるというわけだ。
Peaceful Times_the London-Tokyo meeting
すでにエヴァ盤ライナーには書いたが「次回予告」音楽のアレンジ違いは
録音済みだけでも、すでに20数種ある。
このヴァージョンのリズム隊は2010年お正月録音。
オーケストラはAbbeyroadのBeatles room2013年産。
高橋洋子が英詞で予告音楽を唄うのは
『ヱヴァンゲリヲン新吹奏楽版』に続いて2度目。
そこでLondonからHazel Fernandesも迎え、
濃厚な競演に仕立てた。
高橋援軍にはエヴァゆかりのLoren&MASHが
前奏でBackingVocalを奏で、
Hazel援軍にはスウェーデンの人気オペラ歌手Fred Johanson(ご夫婦ゆえ)も参戦。
間奏に小池修のSaxまで絡み、
すごい面子の大集合となった。
It's Easy
これも『BLEACH』でお馴染みのCueを発展させたヴォーカライズ。
録音は、リードのIan Pitterが英から米Denverに移り住む直前の
2009年に開始してから、
2013年エリックのトランペットソロまで約5年間。
ハデ好きこってり好きの鷺巣は個人的に熱烈なエリック・ファン。
だから何にでもエリックのソロを入れたくなって、
25年前に彼がハワイから来日した時から
ずっと一緒に仕事をしてる。
そのエリック・ファンの広がりも
今やYouTubeのおかげで世界規模。
本作制作中に惜しくも他界した、世界に名だたるトランペッターDerek Watkinsからも
「エリック元気?」と、いつもスタジオで尋ねられた。
Just for Make Believe
なんと出典は『気まぐれオレンジロード』(1987)で
劇伴BGMに書いたSaxの旋律。
ProTools制作環境になり「繰り返し」を演奏せずコピペで済ませるようになったのは
ストリングス・オーケストラとて同じ。
ミュージシャン・ユニオン(労組のような存在)ルール下のLondonでも、
繰り返しは録音しないケースが増えた。
よって本トラック中盤も、
ペースト用にポッカリ空いたオーケストラ無しのスペースが生じた。
しかし逆に、そのおかげでギターとヴォーカルが引き立ち、
かえって曲全体の雰囲気がクラッシーになったのだ。
珍しいケースもあるものだと感心し、
当然コピペはしないままにおいた。
自分で言うのも何だが、
鷺巣ストリングスは「こってり、しつこい」。
Beatles room産オーケストラも含め録音はすべて2010年、
ミックスのみ2013年。
Everything I Lost
LCGC (London Community Gospel Choir) の主幹として
エリザベス女王に謁見もしたBazil Meadeがリード。
1997年にエヴァ『甘き死よ来たれ』にLCGCごと参加してもらって以来の付合いだ。
『SONGBOOK』シリーズでリードを取るのも3曲目。
録音開始は2002年。
Loren&MASHの鷺巣の相方Martin Lascelles宅で
Martin主導のもと進んだ。
そういえばMartinはエリザベス女王の三親等で、なんと女王の叔母メアリー王女の孫。
そんな相手とグループを組んだとは…
オーケストラはBeatles room2013年産ゆえ、
12年越しの録音となった。
Joyful, Joyful We Adore Thee_verse_choral
この旋律と和音のまま、
後ろのストリングス・オーケストラだけを
「ビバップの4度進行」的に「ブルーノートを駆使」して「ビッグバンド話法」で動かしてみたい
と、ずっと考えていたので、
Lorenとピアノとのヴァース後に、
それらを実現させた「合唱」対「ストリングス・オーケストラ」合戦を挟んだ。
Joyful, Joyful
『天使にラブソングを: 2』におけるLauryn Hillのトラックは、Jam & Lewisによる90's解釈だが、
このNicky Brownと鷺巣によるバッキングは、より80's解釈。
シンセベース+生ドラムが象徴的だからだ。
文章に書くとまるで「退化」のようだが、
決してそうはならないところが商業音楽社会の面白いところ。
リズム隊+声がLondonで2008年、
ホーンズは東京で2009年、
ストリングス・オーケストラはBeatles room2010年産という録音順。
わが国が誇る内沼映二氏によるフィニッシュまで丸5年ついやした。
いま現在こういう仕上げが出来るミキシング・エンジニアは世界でも数えるほどしか居ない。
素晴らしい技術、いや、芸術だ。
Love Overcome
盟友、天野正道の誘いで
初めてWarsawを訪れたのは、
もう20年も前。
以来Warsaw Philharmonic Orchestraと
ずっとセッションを重ねて来た。
1999年にはLorenとも訪れ、国立ホールでオーケストラと共に歌唱、録音もしたが、
この曲は2001年にオケをWarsawで、ヴォーカルをLondonで録音したもの。
仕上げまで足かけ13年。
Have Yourself a Merry Little Christmas
London連中とは
一緒に教会で演奏するほどだから
クリスマスソングも自然の流れ。
『London Freedom Choir-SHIRO’S SONGBOOK Selection』にも収録したし、
すでにクリスマス・アルバムぶんに耐える録音の蓄えもある。
今回も11月発売だし、
迷わずこの曲を入れようと。
録音はリズム隊+声を2008年に開始してから、
Beatles room2013年産オーケストラまで。
リズム録音の際リードのIan Pitterが欠席で、
居合わせたPaul Leeに仮唄を託したところ、
とろけるように絶品!!
スタジオ内で唄ったのでドラムやピアノがヴォーカル・マイクに回り込んでるが、
かまわずボーナストラックにも加えることにした。
Variation 'Sang et Guts' and 'Amazing Grace'
2011年からの三部作『ベルセルク黄金時代篇』に書いた
'Blood and Guts'を変奏曲にしようと
編曲を挟間美帆に託し、
Michelle DixonとAndrew Smithによるデュオ録音の
'Amazing Grace'につなげた。
前半のThe London Studio Orchestraは、
Air Lyndhurst hall 2012年産。
録音は巨匠Geoff Foster。
Geoffのスペシャル・マイク・セッティングほど凄いものはない。
仕上げに一切リヴァーブを加えてないのに、このリッチな響き。
まさに教会ホール自然の響きだけで、信じられない美しい残響である。
規格外の歌唱力を誇るMichelleには、
1997年MISIAの'The Glory Day'セッションから
『SONGBOOK』シリーズでもずっと唄ってもらっている。
結婚して米NewYorkに移り住むことになった2006年に録音開始。
Michelleのヴォーカルだけは、
どんな近代レコーディング技術を持ってしても、ぜったい太刀打ち不可能。
それほどの声量、音圧なのだ。
ちなみに身長は2メートル近い。
NewYorkの教会でも毎週、他を圧倒してることだろう。
Slip Away
やはり『BLEACH』でお馴染みのCue(音楽)を
Ian Pitterでヴォーカライズ。
毎度のことながら、Ianの声、そして歌唱には感服である。
セッションは2010年から2013年までの4年間。
最後に東京で中西康晴のピアノと、クリヤマコトのエレピを録ってミックス。
数々の名演を残した名手Anthony Pleeth(チェリスト)が
今春引退を決意した時は、
2007年の同オーケストラ・リーダーGavyn Wright引退以来の衝撃を英米業界に与えた。
最後のカデンツァをいろどるチェロ・ソロは、
2010年Air Lyndhurst hallでの録音ゆえ、
現役時代のTonyのストラディヴァリによる
美しい音、迫力の演奏が聴けるのが、
なにより幸せ。
もう、この後には「何も鳴らしたくなかった」ので一枚目の最終曲とした。
Yearning
二枚目からサウンドは多様化する。
ということで適材適所のスタートだろう。
鷺巣にとって「生涯の相棒」とも呼べるのが、
作詞家でありアーティストのMike Wyzgowski。
名前はPoland式だがコテコテの英国人(スコティッシュ)。
最高の詩人だ。
そのMikeと共に、この曲の録音を開始したのは2008年。
松下誠の多重ギター自宅録音を東京から送ってもらい、
Steve Sidwellのペットとフリューゲルをかぶせた。
SteveはMichael Nymanと何度も来日してる、
ここぞという時たよりになるマルチ・プレーヤー。
Number One 2008
YouTubeは偉大。
Hazel Fernandesは
この『BLEACH』挿入曲で
世界中の新しいファンに出会え大ハッピーなのだから。
姪っ子が大の『BLEACH』ファンで
「叔母さんが唄ってる」現実に大興奮したことに
今度は歌手本人が興奮するという、
もっとも我々に「ありがちなイイ話」だ。
阿部記之監督が気に入って
8年間かかさず一番盛上がるシーンで多用してくれたおかげでもある。
Hazelが唄ったオリジナルも素晴らしいが、
カヴァーゆえ男の子のリードが聴きたくなり、
プロデューサーEliot James推薦の
Adam Brownで2008年に録音。
Eliotは一番近隣のスタジオ・メイトでもあり、Martin Lascellesと似た関係。
その実力は隣の部屋から聴こえる音で一発でわかる。
これがLondonが最高の音楽環境たる所以。
Mark RonsonやKaiser Chiefsなどビッグネームとの仕事でも名を馳せたEliotだが、
スタジオ・メイト・プロデューサーとして部屋を見て音を聴けば
動向まで読めるもの。
その後、Eliotは「MPG Breakthrough Producer of The Year 2011」を受賞した。
Nothing Can Be Explained_variations
作詞家として多くのチャート・ヒットを持つMikeも、
この『BLEACH』挿入曲で
新しいファンに出会えたと大ハッピー。
しかも自分でリードも唄ったゆえ、
やはりYouTube上での人気が嬉しそう。
'Everything I Lost'でも弾いてもらったが
Mikeのギターはなかなか味わい深い。
そこでまず2008年Mike本人の弾き語りで、このセルフカヴァーを録音開始。
今回は変奏曲仕立てにすべく
2012年にはイントロのオーケストラをAir Lyndhurst hallにて録音。
さらに特筆すべきはSteve Homes!!
この驚異的ギタリストとの出会いも2006年『BLEACH』セッション。
居並ぶスペイン人をなぎ倒す英国人フラメンコ奏者がいたことに愕然。
以来、セッションを何度も共にした。
ずっと引っかかってた「このトラック、なんかひと味たりないなぁ」との不安を、
最後の最後2013年9月に、
Steveが見事に吹き飛ばしてくれた。
Lady I Love You So
32年も前のこと、
Brend (ブレンド) というグループを矢沢透、John Stanleyとやることになった。
じゃあまず1枚目シングルを…
じつはそういう経緯ではなかった。
元々なんと松本伊代が登場するシャンプーのCMに書いたBGM。
だからこの詞曲。
もうお解りだろうが、
タイアップ事情から膨らませて発展させた曲が、
結局Brend第一弾シングル(1982年)となってしまったのだ。
時は移り2013年、
プロデューサーEliot Jamesが
「この曲のコード・チェンジは完璧だ」と候補から選んだのには驚いたが、
ならばと速攻で制作をスタートさせた。
オリジナル・シェープ(アレンジ原型)はそのままなのに、
誰が聴いても「ぜったいEliot」の音になっているところ、
さらに極上のPopsに仕上がっているところがスゴい。
Where Your Heart Belongs_choral_orchestral suite_guitar
韓国映画『武士』(2001年)主題歌。
韓流などという言葉さえ存在しない1999年、
中国は北京の撮影所まで呼び出され、
この壮大な作品の音楽を担当することになった。
合唱の声に聴き覚えがあるならば、
それは、これまでのヱヴァ新劇場版を観なれた方だろう。
20シーン以上で流れる合唱と全員まったく同じ面子だからだ。
熟練のオーケストラ編曲は天野正道。
すべてを知り尽くした職人技が光る。
演奏はThe London Studio Orchestra、
指揮は同業者でもあるNick Ingmanで
Abbeyroadの大箱2013年産。
合唱に始まり、オーケストラを経由し、Steveのギターで終わる、という順序が、
まるで古今東西を突き抜けているよう。
Django's Theme
小中高一貫校の、中一の頃、
高ニの渡辺香津美(先輩ゆえ「さん」付け必須)の演奏を
文化祭で見てぶっ飛んだ。
数ヶ月後、高校生なのにリーダーアルバムを出したのには
校内どころか世間も驚いた。
それから20年後、
その同級生山本達彦(「さん」必須)の編曲でレコーディングを共にした。
他にも先輩ミュージシャンは多く(スクエアのメンバーも2人いた)
面白い学校だった。
このジャンゴ・ラインハルトに捧げた曲に、
香津美さんのギターはマスト。
2004年から録り始め、
オーケストラ、ギター、ベース、ヴィブラフォンを録った2013年まで、
9年越しのセッションとなった。
Lorenは無論リードも良いが、
この語尾の表情が完璧に揃ったBV(多重バックヴォーカル)の
何たる美しいことよ!!
Magic Touch_combo_orchestral suite
『気まぐれオレンジロード』において
鮎川まどか(女子高生)が超シブいSaxを吹くという設定は、
鷺巣的には超ストライクだった。
そのレコーディングで、まどかのSaxをすべて吹いたのが誰あろう土岐英史。
これまで黙ってたのは
原作やアニメファンのファンタジーを
乱したくないという配慮というわけではないが、
いずれにしても土岐のパフォーマンスが
TVアニメの域を超えた素晴らしさだったことに変わりはない。
それから27年後、
まさに成るべくして成った発展形。
円熟味たっぷりのLorenも神々しいが、
前曲に続いてなんと秀逸なる渡辺香津美+高水健司+山木秀夫のトリオ・コンビネーション!!
テイク・ワンの上を行く
ホール・イン・ワン(初見テスト・テイクでOKになってしまうこと)まで達成した。
オーケストラ編曲は前半が鷺巣、後半が挟間美帆。
めずらしく、すべて2013年録音。
Toi et Moi_combo_suite d'orchestre
かのMichel Legrandを父に持つ
Benjamin Legrand
(フランス人ゆえバンジャマン・ルグランと発音する)
と初めて会ったのは1992年。
すぐに意気投合して、Parisの鷺巣のクラブにも唄いに来たし、
Olivier Hutmanトリオと共に東京にも呼び、
土岐英史をゲストに据えライヴもした。
その時スタジオ入りして録ったのがこのテイク。
「生涯もっともスケベな曲を吹いた」と
土岐に言わしめたのが、
この曲にとって一番の幸せ。
後半のオーケストラはWarsawでの最新録音ゆえ、
22年を跨いだ組曲となった。
Faubourg Saint-Antoine
1992年、
ParisはBastille近くのFaubourg Saint-Antoine通りに面した、
地上4階、地下1階建ての家具屋を居抜きで手に入れ、
クラブに改造した。
しかしフランスの法律では家具屋の不動産は家具屋の営業権しか持てず、
クラブ経営には(1番から5番まである)「ライセンス4番」を
他の地域からムリヤリ買ってくる必要があり、
それは限りなく不可能に近かった…
かような役所許認可に始まり、とてつもなく難儀な開店までの道のりだったが、
30代のうちに彼の地で会社を持った経験は、とてつもなく大きな財産。
オーナー(鷺巣)=日本人、雇われ社長=仏人、従業員=米、英、仏人の多国籍構成で、
オーガニックなんて売り文句は無い時代、
イタリア人の友人による手作りの紙製家具で店内を統一し、
クラブは船出した。
開店準備3年、開店後2年持ちこたえたのは
今考えれば奇跡。
有名ガイドブックにも登場し、かのCostes兄弟に売却した。
下町の家具「職人地域(Faubourg 本来の意)」で、
わが4階にあった古い家具職人の工房が歴史的価値の高いことも、
置いてある道具ですぐにわかった。
職人が闊歩する通りの風景…自分の店(クラブ)と周辺を
「曲に残そう」と思い立ち書いたもの。
あえて東京をセッションに選んだのも、旧知の職人ミュージシャンを揃えたかったから。
1992年録音ゆえ手元にカセットコピーしか残らず、
マルチテープも無くされてしまい、すでに諦めていたが、
なんとギターの今剛(世界に誇る弾き手だが、こういう曲での演奏は非常にめずらしい)が
DATコピーを保持してたことが今年判明。
これほど狂喜乱舞したことはない。
ありがとう、今!!
Extase
80-90年代はけっこう自分でも詞を書いてた。
せっかく高橋洋子がゲストだし、
ひさしぶりに日本語詞(SONGBOOKシリーズ初)の曲をやりたくなった。
Steve Homesと今剛のツイン・ギターがスリリングだし、
今剛はペダル・スティールもまた泣ける。
大胆なのに呑気にさえ聴こえる斎藤ノブの醍醐味。
それらを従え、なお揺るぎない高橋のヴォーカルは、
さすがの貫禄。
かように、おのおのが勝手のようでいて、無意識のうちに有機的に動き、
要所で最高の仕事をこなしている。
緊張感と安堵感が同居する…
なんとも不思議な空間が構築された。
bonus_Have Yourself a Merry Little Christmas_message
いつも『SONGBOOK』シリーズでオフィシャル・スピーカー役を努めるIan Pitter。
この声は、まさに『SONGBOOK』の宝。
原案: 鷺巣詩郎 脚本: Mike Wyzgowski、
そして本編ではIanが唄ってるリードを、Ianに代って努めるのが
Paul Lee。
わがクワイアきってのエリートだ。
2013年11月5日 鷺巣詩郎
8年ぶりの『SHIRO'S SONGBOOK』シリーズ新作!!
以下は、拙文ライナーノーツからの引用ゆえ、すでにお持ちの方には不要。
いずれにしても、2枚組(約143分)!!
簡素にしたつもりの各曲解説でさえ、これだけの尺なのだから、音のほうも相当…
あらゆる意味で、長々おつきあいいただき、誠にありがとうございます!!
「序文」鷺巣詩郎
前作『SHIRO'S SONGBOOK ver7.0』(2005)以降に始めた曲が中心だが、
それ以前からの継続セッションも多く、
思い切って古くは20数年前からのセッションまで本作にまとめることにした。
結果2-3曲以外すべての録音が2013年9月まで年単位で長期におよんだ。
当然「2枚組」となり、音楽性も多岐にわたったゆえ「自己表現集」との意味合いもふくめ、
タイトルを数字ではなく『(e)Xpressions』とした。
参加ミュージシャンも凄まじい数。
これまで『SHIRO'S SONGBOOK』シリーズすべてに参加している
Loren、Hazel Fernandes、Ian Pitterは、
まず鷺巣のメロディー表現に絶対欠かせないパフォーマーだし、
もちろん他のヴォーカリスト、クワイアとも本当に長い付合いだ。
演奏者にいたっては、東京のミュージシャンは30数年ずっと一緒にやってきた連中ばかり。
The London Studio Orchestra、Warsaw Philharmonic Orchestraどちらとも、
20年以上ずっとセッションを重ねてきている。
とにかく誰も彼も皆、もっとも大切な、かけがえのない仲間たちだ。
自作1枚目の『Eyes』(1979)からずっと変わらず
「自ら唄わず、弾かず」「曲づくり、アレンジ」による自己表現を貫いてきた。
つまり彼等ミュージシャンのパフォーマンス無しには成り立たない作品であることも、
以前とまったく変わらない鷺巣詩郎の『Xpressions』の大きな特徴である。
「各曲制作録」鷺巣詩郎
This Kind of Love
劇場版『カードキャプターさくら 封印されたカード』主題歌の発展形。
じつはCHAKAが唄ったオリジナルのオケ録音は、
ちょうど『SHIRO'S SONGBOOK』2と2.5のセッション真っただ中にLondonで行われた。
スタジオで偶然'明日へのメロディ'のバッキングを耳にしたHazel (Fernandes) から
「イイ感じじゃない、これ私が唄う曲?」と尋ねられ、
否定はしたものの内心「アリかも!!」と閃いたのがコトの起こり。
後述するが、その後Hazelもアニメと縁深くなった。
録音は2010年から4年がかり。
オーケストラの録りはAbbeyroad。
いわゆるBeatles roomにおける2010年産。
Going Home_her sights_his sights
8年間ものTV放映に加え、4本の劇場版まであった『BLEACH』には、
本当に膨大な数のCue(音楽)を書いた。
その代表的Cueで、世界中のギタリストからYouTubeに投稿が絶えない、このギター曲をヴォーカライズ。
原作では高校生だが、ここで繰り広げられるのは「大人たちの家路」。
録音は2008年から。
イントロはオリジナルも弾いた松下誠。
オーケストラの編曲は「彼女側」が鷺巣で
録音は2009年Air産。
「彼側」は若き恐ろしき才能、挟間美帆による編曲で
録音は2013年Abbeyroadの大箱産だ。
なぜ、こうしてThe London Studio Orchestraの録音場所まで、わざわざ記すのか?
それは、各部屋ごとに響きが異なり、
その独特な美しさも識別できるからだ。
残響(エコー、リヴァーブ)を足すのではなく、
部屋の空気を録音してこそ本物の残響が得られるというわけだ。
Peaceful Times_the London-Tokyo meeting
すでにエヴァ盤ライナーには書いたが「次回予告」音楽のアレンジ違いは
録音済みだけでも、すでに20数種ある。
このヴァージョンのリズム隊は2010年お正月録音。
オーケストラはAbbeyroadのBeatles room2013年産。
高橋洋子が英詞で予告音楽を唄うのは
『ヱヴァンゲリヲン新吹奏楽版』に続いて2度目。
そこでLondonからHazel Fernandesも迎え、
濃厚な競演に仕立てた。
高橋援軍にはエヴァゆかりのLoren&MASHが
前奏でBackingVocalを奏で、
Hazel援軍にはスウェーデンの人気オペラ歌手Fred Johanson(ご夫婦ゆえ)も参戦。
間奏に小池修のSaxまで絡み、
すごい面子の大集合となった。
It's Easy
これも『BLEACH』でお馴染みのCueを発展させたヴォーカライズ。
録音は、リードのIan Pitterが英から米Denverに移り住む直前の
2009年に開始してから、
2013年エリックのトランペットソロまで約5年間。
ハデ好きこってり好きの鷺巣は個人的に熱烈なエリック・ファン。
だから何にでもエリックのソロを入れたくなって、
25年前に彼がハワイから来日した時から
ずっと一緒に仕事をしてる。
そのエリック・ファンの広がりも
今やYouTubeのおかげで世界規模。
本作制作中に惜しくも他界した、世界に名だたるトランペッターDerek Watkinsからも
「エリック元気?」と、いつもスタジオで尋ねられた。
Just for Make Believe
なんと出典は『気まぐれオレンジロード』(1987)で
劇伴BGMに書いたSaxの旋律。
ProTools制作環境になり「繰り返し」を演奏せずコピペで済ませるようになったのは
ストリングス・オーケストラとて同じ。
ミュージシャン・ユニオン(労組のような存在)ルール下のLondonでも、
繰り返しは録音しないケースが増えた。
よって本トラック中盤も、
ペースト用にポッカリ空いたオーケストラ無しのスペースが生じた。
しかし逆に、そのおかげでギターとヴォーカルが引き立ち、
かえって曲全体の雰囲気がクラッシーになったのだ。
珍しいケースもあるものだと感心し、
当然コピペはしないままにおいた。
自分で言うのも何だが、
鷺巣ストリングスは「こってり、しつこい」。
Beatles room産オーケストラも含め録音はすべて2010年、
ミックスのみ2013年。
Everything I Lost
LCGC (London Community Gospel Choir) の主幹として
エリザベス女王に謁見もしたBazil Meadeがリード。
1997年にエヴァ『甘き死よ来たれ』にLCGCごと参加してもらって以来の付合いだ。
『SONGBOOK』シリーズでリードを取るのも3曲目。
録音開始は2002年。
Loren&MASHの鷺巣の相方Martin Lascelles宅で
Martin主導のもと進んだ。
そういえばMartinはエリザベス女王の三親等で、なんと女王の叔母メアリー王女の孫。
そんな相手とグループを組んだとは…
オーケストラはBeatles room2013年産ゆえ、
12年越しの録音となった。
Joyful, Joyful We Adore Thee_verse_choral
この旋律と和音のまま、
後ろのストリングス・オーケストラだけを
「ビバップの4度進行」的に「ブルーノートを駆使」して「ビッグバンド話法」で動かしてみたい
と、ずっと考えていたので、
Lorenとピアノとのヴァース後に、
それらを実現させた「合唱」対「ストリングス・オーケストラ」合戦を挟んだ。
Joyful, Joyful
『天使にラブソングを: 2』におけるLauryn Hillのトラックは、Jam & Lewisによる90's解釈だが、
このNicky Brownと鷺巣によるバッキングは、より80's解釈。
シンセベース+生ドラムが象徴的だからだ。
文章に書くとまるで「退化」のようだが、
決してそうはならないところが商業音楽社会の面白いところ。
リズム隊+声がLondonで2008年、
ホーンズは東京で2009年、
ストリングス・オーケストラはBeatles room2010年産という録音順。
わが国が誇る内沼映二氏によるフィニッシュまで丸5年ついやした。
いま現在こういう仕上げが出来るミキシング・エンジニアは世界でも数えるほどしか居ない。
素晴らしい技術、いや、芸術だ。
Love Overcome
盟友、天野正道の誘いで
初めてWarsawを訪れたのは、
もう20年も前。
以来Warsaw Philharmonic Orchestraと
ずっとセッションを重ねて来た。
1999年にはLorenとも訪れ、国立ホールでオーケストラと共に歌唱、録音もしたが、
この曲は2001年にオケをWarsawで、ヴォーカルをLondonで録音したもの。
仕上げまで足かけ13年。
Have Yourself a Merry Little Christmas
London連中とは
一緒に教会で演奏するほどだから
クリスマスソングも自然の流れ。
『London Freedom Choir-SHIRO’S SONGBOOK Selection』にも収録したし、
すでにクリスマス・アルバムぶんに耐える録音の蓄えもある。
今回も11月発売だし、
迷わずこの曲を入れようと。
録音はリズム隊+声を2008年に開始してから、
Beatles room2013年産オーケストラまで。
リズム録音の際リードのIan Pitterが欠席で、
居合わせたPaul Leeに仮唄を託したところ、
とろけるように絶品!!
スタジオ内で唄ったのでドラムやピアノがヴォーカル・マイクに回り込んでるが、
かまわずボーナストラックにも加えることにした。
Variation 'Sang et Guts' and 'Amazing Grace'
2011年からの三部作『ベルセルク黄金時代篇』に書いた
'Blood and Guts'を変奏曲にしようと
編曲を挟間美帆に託し、
Michelle DixonとAndrew Smithによるデュオ録音の
'Amazing Grace'につなげた。
前半のThe London Studio Orchestraは、
Air Lyndhurst hall 2012年産。
録音は巨匠Geoff Foster。
Geoffのスペシャル・マイク・セッティングほど凄いものはない。
仕上げに一切リヴァーブを加えてないのに、このリッチな響き。
まさに教会ホール自然の響きだけで、信じられない美しい残響である。
規格外の歌唱力を誇るMichelleには、
1997年MISIAの'The Glory Day'セッションから
『SONGBOOK』シリーズでもずっと唄ってもらっている。
結婚して米NewYorkに移り住むことになった2006年に録音開始。
Michelleのヴォーカルだけは、
どんな近代レコーディング技術を持ってしても、ぜったい太刀打ち不可能。
それほどの声量、音圧なのだ。
ちなみに身長は2メートル近い。
NewYorkの教会でも毎週、他を圧倒してることだろう。
Slip Away
やはり『BLEACH』でお馴染みのCue(音楽)を
Ian Pitterでヴォーカライズ。
毎度のことながら、Ianの声、そして歌唱には感服である。
セッションは2010年から2013年までの4年間。
最後に東京で中西康晴のピアノと、クリヤマコトのエレピを録ってミックス。
数々の名演を残した名手Anthony Pleeth(チェリスト)が
今春引退を決意した時は、
2007年の同オーケストラ・リーダーGavyn Wright引退以来の衝撃を英米業界に与えた。
最後のカデンツァをいろどるチェロ・ソロは、
2010年Air Lyndhurst hallでの録音ゆえ、
現役時代のTonyのストラディヴァリによる
美しい音、迫力の演奏が聴けるのが、
なにより幸せ。
もう、この後には「何も鳴らしたくなかった」ので一枚目の最終曲とした。
Yearning
二枚目からサウンドは多様化する。
ということで適材適所のスタートだろう。
鷺巣にとって「生涯の相棒」とも呼べるのが、
作詞家でありアーティストのMike Wyzgowski。
名前はPoland式だがコテコテの英国人(スコティッシュ)。
最高の詩人だ。
そのMikeと共に、この曲の録音を開始したのは2008年。
松下誠の多重ギター自宅録音を東京から送ってもらい、
Steve Sidwellのペットとフリューゲルをかぶせた。
SteveはMichael Nymanと何度も来日してる、
ここぞという時たよりになるマルチ・プレーヤー。
Number One 2008
YouTubeは偉大。
Hazel Fernandesは
この『BLEACH』挿入曲で
世界中の新しいファンに出会え大ハッピーなのだから。
姪っ子が大の『BLEACH』ファンで
「叔母さんが唄ってる」現実に大興奮したことに
今度は歌手本人が興奮するという、
もっとも我々に「ありがちなイイ話」だ。
阿部記之監督が気に入って
8年間かかさず一番盛上がるシーンで多用してくれたおかげでもある。
Hazelが唄ったオリジナルも素晴らしいが、
カヴァーゆえ男の子のリードが聴きたくなり、
プロデューサーEliot James推薦の
Adam Brownで2008年に録音。
Eliotは一番近隣のスタジオ・メイトでもあり、Martin Lascellesと似た関係。
その実力は隣の部屋から聴こえる音で一発でわかる。
これがLondonが最高の音楽環境たる所以。
Mark RonsonやKaiser Chiefsなどビッグネームとの仕事でも名を馳せたEliotだが、
スタジオ・メイト・プロデューサーとして部屋を見て音を聴けば
動向まで読めるもの。
その後、Eliotは「MPG Breakthrough Producer of The Year 2011」を受賞した。
Nothing Can Be Explained_variations
作詞家として多くのチャート・ヒットを持つMikeも、
この『BLEACH』挿入曲で
新しいファンに出会えたと大ハッピー。
しかも自分でリードも唄ったゆえ、
やはりYouTube上での人気が嬉しそう。
'Everything I Lost'でも弾いてもらったが
Mikeのギターはなかなか味わい深い。
そこでまず2008年Mike本人の弾き語りで、このセルフカヴァーを録音開始。
今回は変奏曲仕立てにすべく
2012年にはイントロのオーケストラをAir Lyndhurst hallにて録音。
さらに特筆すべきはSteve Homes!!
この驚異的ギタリストとの出会いも2006年『BLEACH』セッション。
居並ぶスペイン人をなぎ倒す英国人フラメンコ奏者がいたことに愕然。
以来、セッションを何度も共にした。
ずっと引っかかってた「このトラック、なんかひと味たりないなぁ」との不安を、
最後の最後2013年9月に、
Steveが見事に吹き飛ばしてくれた。
Lady I Love You So
32年も前のこと、
Brend (ブレンド) というグループを矢沢透、John Stanleyとやることになった。
じゃあまず1枚目シングルを…
じつはそういう経緯ではなかった。
元々なんと松本伊代が登場するシャンプーのCMに書いたBGM。
だからこの詞曲。
もうお解りだろうが、
タイアップ事情から膨らませて発展させた曲が、
結局Brend第一弾シングル(1982年)となってしまったのだ。
時は移り2013年、
プロデューサーEliot Jamesが
「この曲のコード・チェンジは完璧だ」と候補から選んだのには驚いたが、
ならばと速攻で制作をスタートさせた。
オリジナル・シェープ(アレンジ原型)はそのままなのに、
誰が聴いても「ぜったいEliot」の音になっているところ、
さらに極上のPopsに仕上がっているところがスゴい。
Where Your Heart Belongs_choral_orchestral suite_guitar
韓国映画『武士』(2001年)主題歌。
韓流などという言葉さえ存在しない1999年、
中国は北京の撮影所まで呼び出され、
この壮大な作品の音楽を担当することになった。
合唱の声に聴き覚えがあるならば、
それは、これまでのヱヴァ新劇場版を観なれた方だろう。
20シーン以上で流れる合唱と全員まったく同じ面子だからだ。
熟練のオーケストラ編曲は天野正道。
すべてを知り尽くした職人技が光る。
演奏はThe London Studio Orchestra、
指揮は同業者でもあるNick Ingmanで
Abbeyroadの大箱2013年産。
合唱に始まり、オーケストラを経由し、Steveのギターで終わる、という順序が、
まるで古今東西を突き抜けているよう。
Django's Theme
小中高一貫校の、中一の頃、
高ニの渡辺香津美(先輩ゆえ「さん」付け必須)の演奏を
文化祭で見てぶっ飛んだ。
数ヶ月後、高校生なのにリーダーアルバムを出したのには
校内どころか世間も驚いた。
それから20年後、
その同級生山本達彦(「さん」必須)の編曲でレコーディングを共にした。
他にも先輩ミュージシャンは多く(スクエアのメンバーも2人いた)
面白い学校だった。
このジャンゴ・ラインハルトに捧げた曲に、
香津美さんのギターはマスト。
2004年から録り始め、
オーケストラ、ギター、ベース、ヴィブラフォンを録った2013年まで、
9年越しのセッションとなった。
Lorenは無論リードも良いが、
この語尾の表情が完璧に揃ったBV(多重バックヴォーカル)の
何たる美しいことよ!!
Magic Touch_combo_orchestral suite
『気まぐれオレンジロード』において
鮎川まどか(女子高生)が超シブいSaxを吹くという設定は、
鷺巣的には超ストライクだった。
そのレコーディングで、まどかのSaxをすべて吹いたのが誰あろう土岐英史。
これまで黙ってたのは
原作やアニメファンのファンタジーを
乱したくないという配慮というわけではないが、
いずれにしても土岐のパフォーマンスが
TVアニメの域を超えた素晴らしさだったことに変わりはない。
それから27年後、
まさに成るべくして成った発展形。
円熟味たっぷりのLorenも神々しいが、
前曲に続いてなんと秀逸なる渡辺香津美+高水健司+山木秀夫のトリオ・コンビネーション!!
テイク・ワンの上を行く
ホール・イン・ワン(初見テスト・テイクでOKになってしまうこと)まで達成した。
オーケストラ編曲は前半が鷺巣、後半が挟間美帆。
めずらしく、すべて2013年録音。
Toi et Moi_combo_suite d'orchestre
かのMichel Legrandを父に持つ
Benjamin Legrand
(フランス人ゆえバンジャマン・ルグランと発音する)
と初めて会ったのは1992年。
すぐに意気投合して、Parisの鷺巣のクラブにも唄いに来たし、
Olivier Hutmanトリオと共に東京にも呼び、
土岐英史をゲストに据えライヴもした。
その時スタジオ入りして録ったのがこのテイク。
「生涯もっともスケベな曲を吹いた」と
土岐に言わしめたのが、
この曲にとって一番の幸せ。
後半のオーケストラはWarsawでの最新録音ゆえ、
22年を跨いだ組曲となった。
Faubourg Saint-Antoine
1992年、
ParisはBastille近くのFaubourg Saint-Antoine通りに面した、
地上4階、地下1階建ての家具屋を居抜きで手に入れ、
クラブに改造した。
しかしフランスの法律では家具屋の不動産は家具屋の営業権しか持てず、
クラブ経営には(1番から5番まである)「ライセンス4番」を
他の地域からムリヤリ買ってくる必要があり、
それは限りなく不可能に近かった…
かような役所許認可に始まり、とてつもなく難儀な開店までの道のりだったが、
30代のうちに彼の地で会社を持った経験は、とてつもなく大きな財産。
オーナー(鷺巣)=日本人、雇われ社長=仏人、従業員=米、英、仏人の多国籍構成で、
オーガニックなんて売り文句は無い時代、
イタリア人の友人による手作りの紙製家具で店内を統一し、
クラブは船出した。
開店準備3年、開店後2年持ちこたえたのは
今考えれば奇跡。
有名ガイドブックにも登場し、かのCostes兄弟に売却した。
下町の家具「職人地域(Faubourg 本来の意)」で、
わが4階にあった古い家具職人の工房が歴史的価値の高いことも、
置いてある道具ですぐにわかった。
職人が闊歩する通りの風景…自分の店(クラブ)と周辺を
「曲に残そう」と思い立ち書いたもの。
あえて東京をセッションに選んだのも、旧知の職人ミュージシャンを揃えたかったから。
1992年録音ゆえ手元にカセットコピーしか残らず、
マルチテープも無くされてしまい、すでに諦めていたが、
なんとギターの今剛(世界に誇る弾き手だが、こういう曲での演奏は非常にめずらしい)が
DATコピーを保持してたことが今年判明。
これほど狂喜乱舞したことはない。
ありがとう、今!!
Extase
80-90年代はけっこう自分でも詞を書いてた。
せっかく高橋洋子がゲストだし、
ひさしぶりに日本語詞(SONGBOOKシリーズ初)の曲をやりたくなった。
Steve Homesと今剛のツイン・ギターがスリリングだし、
今剛はペダル・スティールもまた泣ける。
大胆なのに呑気にさえ聴こえる斎藤ノブの醍醐味。
それらを従え、なお揺るぎない高橋のヴォーカルは、
さすがの貫禄。
かように、おのおのが勝手のようでいて、無意識のうちに有機的に動き、
要所で最高の仕事をこなしている。
緊張感と安堵感が同居する…
なんとも不思議な空間が構築された。
bonus_Have Yourself a Merry Little Christmas_message
いつも『SONGBOOK』シリーズでオフィシャル・スピーカー役を努めるIan Pitter。
この声は、まさに『SONGBOOK』の宝。
原案: 鷺巣詩郎 脚本: Mike Wyzgowski、
そして本編ではIanが唄ってるリードを、Ianに代って努めるのが
Paul Lee。
わがクワイアきってのエリートだ。
2013年11月5日 鷺巣詩郎
Evangelion PianoForte #1
Composed by ShiroSAGISU
ごぶさたしてます。お変わりありませんか?
早いもので、もう数日後には欧州も冬時間にもどり、一気に冬支度です。
さて、そんな中、いよいよエヴァ初のピアノ・アルバム『PianoForte』が登場します!!
その発売を祝し、CDブックレット上では紹介しきれなかった録音データ詳細を、ここに明らかにしちゃいましょう。
01 E01_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将
02 B20_kuriya(新録)
ソリスト クリヤマコト
03 B01_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子
04 E13_kita(新録)
ソリスト 北るみこ
05 M10_nakanishi_arianne(旧録からピアノと唄を抽出)
ソリスト 中西康晴(唄 Arianne、合唱 London Community Gospel Choir)
06 EM21_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将
07 KK_A09_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子
08 KK_A08_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子
09 KK_A09_alterna_kuriya(未発表テイク)
ソリスト クリヤマコト
10 E16_shima(新録)
ソリスト 島健
11 Quatre Mains_miyagi_kita(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子、北るみこ
12 E05_yamashita(新録)
ソリスト 山下洋輔
13 M11_shionoya_arianne(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)
ソリスト 塩谷哲(唄 Arianne)
14 A01_yamashita_take1(新録)
ソリスト 山下洋輔
15 Quatre Mains_tribute to Rachmaninov_kita(新録)
ソリスト 北るみこ
16 E05_sasaji(新録)
ソリスト 笹路正徳(バッキング=小池修、藤田淳之介、土方隆行、岡沢章、渡嘉敷祐一、仙波清彦)
17 A01_clone_miyagi(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子
18 F02_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子
(新録)今回『PianoForte』のために新たにアレンジ、新たに録音したもの。
(旧録からピアノと唄を抽出)過去発表済トラックから、特定パートだけ抜き出したもの。
(旧録のサイズ違い=未発表)劇場版『破』用編集サイズではなく、フルサイズを収録したもの。
(未発表テイク)劇場版『破』用にたくさん録音した中から、使用しなかったテイクを、収録したもの。
(旧録リマスター)過去すでに発表済トラックを、本アルバム用に、最新技術にてマスタリングし直したもの。
(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)Arianne旧Vocalのみ抜き出し、それに合わせ今回新たにピアノだけ録音したもの。
また、CDクレジット上には明記できませんでしたが、'16 E05_sasaji'にて、笹路のエレピ、アコピと共に、
テナーサックスの素晴らしいアドリブを奏でているのは、やはりエヴァではおなじみ小池修です。
エヴァのレギュラー・ピアニスト陣
宮城純子=6曲、北るみこ=3曲、クリヤマコト=2曲、島健=1曲、中西康晴=1曲
ゲスト・ピアニスト陣
山下洋輔=2曲、松本和将=2曲、笹路正徳=1曲、塩谷哲=1曲
以上の布陣。
「なぜ、あの曲が収録されてないの?」と、お嘆き、ご立腹のみなさま、もう少々お待ちください。
「PianoForte#2」(続編)も、すでに着々と、制作進行中です!!
なにせ、この企画はもともと『Q』以前からとりかかっていたもの。
つまり『Q』でも、かなりピアノ曲が増えたこともあって、
発表したいものは、まだまだ沢山あるんです!!
2013年10月22日 鷺巣詩郎
Composed by ShiroSAGISU
ごぶさたしてます。お変わりありませんか?
早いもので、もう数日後には欧州も冬時間にもどり、一気に冬支度です。
さて、そんな中、いよいよエヴァ初のピアノ・アルバム『PianoForte』が登場します!!
その発売を祝し、CDブックレット上では紹介しきれなかった録音データ詳細を、ここに明らかにしちゃいましょう。
01 E01_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将
02 B20_kuriya(新録)
ソリスト クリヤマコト
03 B01_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子
04 E13_kita(新録)
ソリスト 北るみこ
05 M10_nakanishi_arianne(旧録からピアノと唄を抽出)
ソリスト 中西康晴(唄 Arianne、合唱 London Community Gospel Choir)
06 EM21_matsumoto(新録)
ソリスト 松本和将
07 KK_A09_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子
08 KK_A08_miyagi(旧録のサイズ違い=未発表)
ソリスト 宮城純子
09 KK_A09_alterna_kuriya(未発表テイク)
ソリスト クリヤマコト
10 E16_shima(新録)
ソリスト 島健
11 Quatre Mains_miyagi_kita(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子、北るみこ
12 E05_yamashita(新録)
ソリスト 山下洋輔
13 M11_shionoya_arianne(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)
ソリスト 塩谷哲(唄 Arianne)
14 A01_yamashita_take1(新録)
ソリスト 山下洋輔
15 Quatre Mains_tribute to Rachmaninov_kita(新録)
ソリスト 北るみこ
16 E05_sasaji(新録)
ソリスト 笹路正徳(バッキング=小池修、藤田淳之介、土方隆行、岡沢章、渡嘉敷祐一、仙波清彦)
17 A01_clone_miyagi(旧録リマスター)
ソリスト 宮城純子
18 F02_miyagi(新録)
ソリスト 宮城純子
(新録)今回『PianoForte』のために新たにアレンジ、新たに録音したもの。
(旧録からピアノと唄を抽出)過去発表済トラックから、特定パートだけ抜き出したもの。
(旧録のサイズ違い=未発表)劇場版『破』用編集サイズではなく、フルサイズを収録したもの。
(未発表テイク)劇場版『破』用にたくさん録音した中から、使用しなかったテイクを、収録したもの。
(旧録リマスター)過去すでに発表済トラックを、本アルバム用に、最新技術にてマスタリングし直したもの。
(旧録から唄を抽出して、ピアノを新録)Arianne旧Vocalのみ抜き出し、それに合わせ今回新たにピアノだけ録音したもの。
また、CDクレジット上には明記できませんでしたが、'16 E05_sasaji'にて、笹路のエレピ、アコピと共に、
テナーサックスの素晴らしいアドリブを奏でているのは、やはりエヴァではおなじみ小池修です。
エヴァのレギュラー・ピアニスト陣
宮城純子=6曲、北るみこ=3曲、クリヤマコト=2曲、島健=1曲、中西康晴=1曲
ゲスト・ピアニスト陣
山下洋輔=2曲、松本和将=2曲、笹路正徳=1曲、塩谷哲=1曲
以上の布陣。
「なぜ、あの曲が収録されてないの?」と、お嘆き、ご立腹のみなさま、もう少々お待ちください。
「PianoForte#2」(続編)も、すでに着々と、制作進行中です!!
なにせ、この企画はもともと『Q』以前からとりかかっていたもの。
つまり『Q』でも、かなりピアノ曲が増えたこともあって、
発表したいものは、まだまだ沢山あるんです!!
2013年10月22日 鷺巣詩郎
祝 BD/DVD 発売記念
The 'Q' Notes Rally
ごぶさたしております。
'Q' BD/DVD(OST付)は入手されましたでしょうか?
今年もまた、欧州内をグルグル廻りながら作業中です。
('Music From Evangelion 3.0'ライナーご覧の方は、どういう作業か、お察しいただけるはず)
遠くからですが、'Q' BD/DVD発売を祝して「何か出来ないか」と考えました。
そこで、実際OSTレコーディングに使用した譜面PDFを、ここにアップしようと思い立ちました。
題して
The 'Q' Notes Rally
ラリーは毎日0時スタートで、なんと1週間続きます!!
2013年4月23日 鷺巣詩郎より。
From Beethoven 9 =3EM27=The 'Q' Notes Rally
ごぶさたしております。
'Q' BD/DVD(OST付)は入手されましたでしょうか?
今年もまた、欧州内をグルグル廻りながら作業中です。
('Music From Evangelion 3.0'ライナーご覧の方は、どういう作業か、お察しいただけるはず)
遠くからですが、'Q' BD/DVD発売を祝して「何か出来ないか」と考えました。
そこで、実際OSTレコーディングに使用した譜面PDFを、ここにアップしようと思い立ちました。
題して
The 'Q' Notes Rally
ラリーは毎日0時スタートで、なんと1週間続きます!!
2013年4月23日 鷺巣詩郎より。
この第九を聴いて「おやっ」と思った方は、
相当数の第九を聴きこんでおられる。
さらに、
ホルン、金管に「むむっ」と引っ張られた方は、
そりゃもう現役か経験者。
なぜなら第一に、
終始クリックに支配された、
一風「変わった」第九 第四楽章であること。
(4つ打ちも、ブレークビーツも可能ゆえ、どうぞRemixに挑戦あれ!!)
そして第二に、
ホルン、金管、打楽器パートが、数カ所、
オリジナルから大きく離れているからである。
詳細(文章下)からも一目瞭然、
録音方法(順序)自体も、かなり変則。
今回『Q』すべてのオーケストラ編成において、
大きな特徴は、
木管が、2管編成(8名)または、3管編成(12名)であろうが、
弦が、14型(50名)、16型(60名)、18型(70名)であろうが、
「ホルン、金管の数」を、
かたくなに増量定数として、揃えたことだ。
そう、
『序』『破』では、
ホルン4本、トランペット3本、トロンボン3本、チューバ1本
という現代のオーケストラにおける基準編成だったのが、
『Q』では、
ホルン6本、トランペット4本、トロンボン4本、チューバ2本
という、相当ケバい(笑)編成に、揃えたのである。
このホルン、金管の増量定数も、
'From Beethoven 9'の仕上がりに、かなり影響を与えたというわけだ。
通常クラシックのマスターピースを演奏、録音する場合、
その「オリジナル・スコア」に100%忠実に、
オーケストラを編成、招集するもの。
しかし、
今回は、逆に、
われわれ『Q』独自の編成に、あくまでも即して、
第九を再構築すべく、
オーケストラ編曲を担当した、わが盟友、天野正道と、
何度もスコアリング・キャッチボールを重ねながら、
とことん、つきつめていった。
さて、
もうひとつ特筆すべきは、
第九 第四楽章の華「偉大なるソリストたち」!!
ぜひ、クレジットから、彼等の経歴も検索してみてほしい。
『序』『破』と、ずっとEvaの合唱をささえてきた、
Our Special Choirのリードの面々が、
いかに百戦錬磨のソリストであるか、読みとれるはず。
その素晴らしいパフォーマンスは、
『序』『破』『Q』を通して不変。
ことに、この'From Beethoven 9'において、
あたりまえながら、その真価を十二分に発揮している。
もちろん第九は、正真正銘のドイツ語歌詞だが、
(Seeleの発音が'ゼーレ'より'ズィーレ'寄りなのは、第九歌唱経験者なら合点だろう)
他のオリジナル合唱Cue(曲)は、すべて英語詞だ。
蛇足ながら
『序』『破』の合唱について
「唄っているのは本当に英語?」
「英語圏のシンガーでないのでは?」
との質問を、じつによく受ける。
(身内スタッフからも)
全員バリバリの英国人なのに、
なぜ、そう聴こえるか?
それは、
アレンジや歌詞に沿って、
「意図的」に、
ときにイタリア語的(オペラ風)な、
ときにドイツ語的(仰々しさを演出)な、
発音で唄っているから、そう聴こえるのだ。
そんな「贅沢な演出」は、
究極のプロフェッショナルである彼等だからこそ可能なのだと、
この第九を聴くと、痛いほどよくわかる。
オーケストラ The London Studio Orchestra
リード第一ヴァイオリン Perry Montague=Masaon(ペリー・モンタグ=メイソン)
オーケストラ指揮 Nick Ingman(ニック・イングマン)
合唱 Our Special Choir
リード・ソプラノ Catherine Bott(キャサリン・ボット)
リード・アルト Deborah Miles=Johnson(デボラ・マイルス=ジョンソン)
リード・テナー Andrew Busher(アンドリュー・ブッシャー)
リード・バス Michael George(マイケル・ジョージ)
総合編曲 鷺巣詩郎
オーケストラ編曲 天野正道
2009年12月Beethoven Studioにて、ガイド・ピアノ録音
2010年3月Air Lyndhurst Hallにて、ソロ歌唱と合唱録音
2012年8月Air Lyndhurst Hallにて、80人編成フル・オーケストラ録音
Bataille d'Espace =3EM01=
雰囲気だけは、ぜったい、明確に保持。
何かほんの少し「プラス・アルファ」を、付け足しましょう、と。
では、ホーン・セクションを加えましょう、と。
スコアやパートのプリントアウトも整えたセッション前日、
ふと「新たなギターも足そう」と思いついた。
ならば、これまでと少し変化をつけるべく、
北島健二に電話をかけた。
Evaは、ファーストコール・ギタリストの見本市。
今剛、芳野藤丸、松下誠、土方隆行
と来たら、もう北島だ。
この5人をはじめ、リズム・セクションの面々とは、
もう30年以上、一緒に仕事をしてる。
まるで童心に返ったような、
楽しい会話=演奏
に満ちている。
リズムセクション
山木秀夫(ドラムス)斎藤ノブ(ボンゴ)
今剛、芳野藤丸、北島健二(ギター)
編曲 鷺巣詩郎
2007年7月 リズムセクション録音
2012年7月 エリック宮城トップのホーン16人編成オーケストラ追加録音
2012年7月 北島健二のギター追加録音
Qui veut faire l'ange fait la bête (piano solo) =3EM17=
るみちゃんを初めて聴いたのは1986年、
森雪之丞バンド「マイティ・オペラ」の初ライヴ。
村田陽一や、ラッキイ池田もいて、えらくゴージャスだった。
「すごく良いから鷺巣くんも呼んだら」との雪之丞リコメンドもあり、
仕事をお願いするようになった。
初Evaは、旧劇場版。
その流れで、交響楽(コンサート)にも参加してもらった。
オケをしたがえ、るみちゃんの超絶ピアノが炸裂する'I SHINJI'は、
誰もが認める名演に仕上がった(スコアは斎藤恒芳)。
このCue(曲)からもうかがえるのは、
「この譜面は、こう練習して、こう弾くべし」という、
るみちゃんの、かたくなな美学である。
そうした彼女のアティテュードが、
完璧な仕上がりを導くのだろう。
宮城純子、クリヤマコトとともに、Evaにとって必要不可欠なピアニストである。
独奏 北るみこ
録音は2012年10月、ピアノはSteinway。
Quiproquo 131 (2 pianos) =3EM03=
Quiproquo 83 (2 pianos) =3EM09=
1台のピアノ連弾は、
さすがに今回'Quatre Mains'が初めてだが、
2台のピアノ連奏ならば、
『序』の'I'll Go On Lovin' Someone Else'や、
旧劇場版の『空しき流れ』でも、
同じ、宮城純子、北るみこ、の連奏を、
すでに何度か録音している。
庵野作品で、もっと遡るならば、
『ふしぎの海のナディア』においては、
故大谷和夫氏、宮城純子、の連奏もあった。
そう、鷺巣は元来、2台のピアノ連奏が大好きなのだ。
今度こそ、ぜひ3台の同録にも挑戦したい!!
編曲 鷺巣詩郎
2012年10月
宮城純子(下声部)Boesendorfer
北るみこ(上声部)Steinway
同時レコーディング
Quelconque 103 (piano) =3EM08=
『破』のライナーにも書いたが、
かれこれ36年間も仕事を共にしている。
鷺巣にとって、とても、とても大切なピアニスト。
映像音楽のセッションで、彼女を呼ばなかったことは無いほど、
数々の「音楽表現」をしていくうえで、
いちばん重要な奏者である。
宮城純子の指先は、
鷺巣の書いた譜面にひそんでいる、
庵野秀明というアーティストが紡ぐ「機微」までを、
映像に投影してしまう。
そのシンクロ率たるや半端ではない。
独奏 宮城純子
録音は2012年9月、ピアノはBoesendorfer。
Thème Q (guitare) =3EM13=
誕生は『破』公開直後。
『Q』内容云々というより、広義なCue(曲)が出来たかな、と
仕上げの譜面を書いているとき、
ふと『序』の'EM09'→'Guit_A'との類縁を感じ
「そうだ(松下)誠に頼もう」となった。
先に書いた30年以上のつきあい、という理由より、
なにより、
松下誠は、鷺巣にとって
入組んだ「リハモ(Reharmonization)感覚」を共有できうる、
つまり、
独奏を「100%」ゆだねるられる、
数少ないギタリストだからだ。
さらに、ハイファイに対して
高度な自己流儀が、常に保たれていることも大きい。
ハード、ソフトウェアは、現状に及ばないが、
ノウハウという面で「スタジオ芸術」が最も洗練されたのは、
1960、70年代であることに疑いの余地はない。
あらゆるスタジオ的な見地から俯瞰しても、
演奏能力だけでなく、そうしたノウハウをも熟知した、
松下誠、今剛、
このふたりの「スタジオ芸術を極める」能力だけは、
世界的にも「突出している」。
『Q』の主題は、松下誠なしに、生まれなかっただろう。
ギター 松下誠
録音は2009年11月
Gods Message =3EM02=
もっとも嬉しい出来事と、もっとも悲しい出来事が、ほぼ同時に押し寄せた。
かつて革命を起こしたジャズ・ヴォーカル・グループがあった。
結成50年を経た現在も(オリジナル・メンバーではないが)
なお活動中のThe Swingle Singers(Les Double Six)である。
その結成の地Parisにて、彼等とオーケストラとの共演が観られたのは本当に幸せだった。
が、しかし、その歓喜興奮も束の間の、2011年11月、
オリジナル・メンバーであり、Michel Legrand(ミシェル・ルグラン)を弟に持つ
Christiane Legrand(クリスティアヌ・ルグラン)が
逝去してしまった…
米英産と誤解されがちだが、
いわゆる<シャバダバ>等のスキャットを「合唱してしまう」
独創的な発想と、その表現方法は、
じつは彼女が大きく発展させたものであり、多くの名演を残している。
その輝かしき功績は、Demy(ジャック・ドゥミ)=Legrandによる銀幕名作群においても、
彼女が牽引した美しいジャズ大合唱が証明している。
ただし今回、この'Gods Message' だけは、
わが冬木透氏に敬意を表した「あの合唱」と明記しなければならない。
鷺巣の仕事仲間でもある友人Benjamin Legrand(バンジャマン・ルグラン)は、
Michel Legrandを父に持つ、やはりジャズ・ヴォーカリスト。
20年前そのBenjaminを東京に招きライヴを催した時、
まっ先に駆けつけてくれたのが故羽田健太郎氏である。
やはり、大のDemy=Legrandフリークである羽田氏と共に、
その楽曲群の魅力について語り明かしたが、
一致したのは、それら魅力のかなりの部分を
「Christiane Legrandによる独特の合唱」が占めているいう点であった。
『シェルブールの雨傘』『ロシュフォールの恋人たち』を回想する際、
まっ先に頭に鳴るのがLegrand姉弟による合唱であるように、
やはり『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』と言えば、
あの冬木氏の合唱が鳴り響くのは至極同然である。
わが家のスタジオから『マグマ大使』(1966)が生みだされていた頃、
ピープロの一兵卒としての自負を持っていた小学生の鷺巣は、
なにより故山本直純氏の奏でる素晴らしい音楽が、とても誇らしかった。
さらに、告白するならば、
同時期に『シェルブールの雨傘』(1964)『ロシュフォールの恋人たち』(1967)
『ウルトラセブン』(1967)『帰ってきたウルトラマン』(1971)に触れた、欲深き子供が、
「いつか、こういう合唱を自分の曲にも加えよう!!」
と、
すでに心に決めていたのである。
オーケストラ The London Studio Orchestra
リード第一ヴァイオリン Perry Montague=Masaon(ペリー・モンタグ=メイソン)
オーケストラ指揮 Nick Ingman(ニック・イングマン)
合唱 Our Special Choir
リード・ソプラノ Catherine Bott(キャサリン・ボット)
リード・アルト Deborah Miles=Johnson(デボラ・マイルス=ジョンソン)
リード・テナー Andrew Busher(アンドリュー・ブッシャー)
リード・バス Michael George(マイケル・ジョージ)
合唱作詞 Mike Wyzgowski(マイク・ウィズゴウスキ)
総合編曲 鷺巣詩郎
オーケストラ編曲 天野正道
リズム編曲、プログラミング、すべてのギター、ベース演奏 CHOKKAKU
2012年4月Air Lyndhurst Hallにて、The London Studio Orchestra 80人フル編成オーケストラ録音
2012年7月東京にて、エリック宮城トップのホーン16人編成オーケストラ追加録音
2012年8月Abbey Road Studiosにて、The London Studio Orchestra 50人編成ストリングス・オーケストラ追加録音
2012年8月Air Lyndhurst Hallにて、合唱録音
Quatre Mains (à quatre mains) =3EM16=
Paris仕事場で、連弾用のPiano小品を、1週間かけて20個ぐらい書き、
選別、合体、推敲をかさねた12個を、監督に送ったところ、
「もっと『明るく、躍動感ある』ものを」との返事。
コンテを熟読しすぎて、鬱々感が滲んだかな?と顧みた瞬間、
とつぜん頭の中に、この『Quatre Mains』の完成形が流れ出した。
猛然と書き、録り、速攻で監督に送った。
頭に浮かんでから監督に送るまでのスピードが、
Cue(曲)自体のテンポ(速度)にも反映されたようだ。
表示の「140 BPM」を見ても、客観的に聴いても、さほどは感じないのだが、
弾いたら最後、とにかく「速い」!!
まるでジェットコースターのように恐ろしく、
弾き手泣かせこのうえない。
ほんの少しだけ下げ「138 BPM」にして、おそるおそる監督に再送したところ
「面白味がないですねぇ」。
そりゃもう、その通りだけに、逆に「さすがの反応」と感心した。
かくして、さらに、おそるおそる、二人のピアノ奏者に
「140 BPM」のまま譜面とコンピュータによる演奏を送ったのである。
まずは悲鳴も聞こえたが、
そこは選ばれし者たちの「フィギュアスケート、体操の規定演技」のごとし。
かぎりなく自然に、パフォーマンスを「高み」まで運びうる熟練に、心配は無用だった。
さて本番は「撮影か、録音か、わからない(笑)」ほど。
カメラ総数なんと20数台!!
宮城純子がしっかり下部をささえ、北るみこが軽やかに上部を奏でる。
雰囲気を変えたオプションが欲しくなった時のために、クリヤマコトも待機してもらう。
撮影、録音あわせて、総勢30名以上のスタッフ。
すべてのテイクをカチンコで区切り、20数台のカメラ、録音機材を、毎回セットアップ・スタンバイ。
「庵野総監督→鷺巣→前田監督の合図」という三段構えで本番が持続する、
いつにない異様な雰囲気の中、撮影、録音は進行した。
緊張により醸しだされる独特な「高揚感」が、奏者の指先に大きく作用し、
ひじょうに良い結果をもたらした、と言うしかない。
ピアノの音色というポテンシャルを超越した、
「はじけるような」個性ゆたかな音色が、ここにある。
2012年7月、予告が初公開された際、
「映像はYAMAHAだけど、音はSteinwayかBoesendorferなのでは?」との質問を、よく受けたが、
録音も撮影も同時ゆえ、正真正銘YAMAHAの音。
ただし、特殊環境というプラスアルファが加味された、
まさにワン・アンド・オンリーの音色である。
ピアノ好きの庵野監督ゆえ、録音はいつも複数台ピアノを用意する贅沢な環境。
旋律やアレンジにより、Boesendorfer、Steinway、YAMAHAから、監督もまた比較選別する。
YAMAHAが選ばれたのは『序』における、いくつかのCue(曲)以来。
しかも「何年から何年の間に製造されたモデル」とまで特定され、
スタジオ常設のSteinwayピアノを押しのけて、この録音、撮影だけのために、
「YAMAHA CFIII」が、業者により運びこまれたのだ。
完璧なパフォーマンスを導いてくれた、宮城純子、北るみこ、両ピアニストに、
いま一度、大きな、大きな拍手を送りたい。
編曲 鷺巣詩郎
(レコーディングに使用した譜面を、そのままCD付録として掲載済)
ピアノ演奏 宮城純子 北るみこ
ヱヴァ音楽制作上の、いくつかの「定石」。
Air Lyndhurst Hall(巨大教会ホール)で録音した全データは、当日深夜わがスタジオEastcoteに持ち帰り、
さっそく翌日いっぱいまで、すべてのテイクを試聴、OKテイク確認作業を集中して行う。
そしてオーケストラ録音の2日後からは、ホール階上の部屋(Air2か3)にエンジニアのRupert Coulsonと共にこもり、
まずは合唱を除き、オーケストラ部分だけのミックスを開始する。
これが「定石」の第一である
なぜ、かならず2日後かは明白。
膨大な量のオーケストラ・テイクの綿密な記憶など、2日間の保持が限界だからだ。
なぜ、合唱を除くかは後述しよう。
じつは大敵は、演奏ミスではなく「ノイズ」。
良い環境(スタジオ、マイク、機材)において、大人数(80名以上)多マイク(50本以上)で録音すればするほど、
奏者の呼吸から、楽器を扱い、指が譜面に触れるなど、ほんの些細な物理音まで拾ってしまうもの。
なにしろ「カサッ」と雑音がしたら、50以上のトラックすべて「1トラックづつ」確認しながら、
それらをミリセカンド(1/1000)秒まで拡大して、ピンスポット消去していく作業は生半可ではない。
1回で、20 Cue(曲)は録音するから、その50トラックぶんとしても、のべ1000トラック、
しかも1000トラック各々が「数テイクぶん」「実時間ぶん」存在するのだから気が遠くなる。
さらに加えて、同じく50以上のトラック数の「合唱」が、まだ存在するのだ。
まずはオーケストラ「だけ」しかミックスしないのは、
そういう膨大な量の中から「順次、確実に」確認、選択、削除、整理していかなくてはならないから、
という理由がまず第一。
第二の理由として、
合唱は公開直前の最終段階において「出し入れ(映像により、聴かせる部分、カットする部分)」必須であろうし、
場合によっては「歌詞を変え、録音やり直し」も想定しなければならないから。
(じっさい今回は、なんと映画公開2週間前に、歌詞を書き換え、再録音を敢行した)
ゆえに「オーケストラと合唱は、常に別個にしておかねばならない」のも、また「定石」。
オーケストラで50以上、合唱で50以上、合計100以上のトラック、
そして、すでに『破』からの「定石」だが、
そのオーケストラも合唱も2倍、3倍に増やすことが、めずらしくない。
トラック総数が300、400まで膨らむということだ。
ここまででお察しの通り、
ヱヴァの音楽には「とてつもない数量をこなす時間」が、もう絶対、必要不可欠。
これもまた「定石」である。
この膨大なトラック数が、さらにやっかいなのは、
いかに日本有数の東京の大スタジオに入ろうが、
ヱヴァ音楽(そのProToolsセッション)だけは、絶対に立ち上がらないことである。
通常プロダクションの録音トラック数の常識範囲を大きく超えた、
とてつもないトラック数(たとえば歌手アーティスト録音の十数倍)ゆえに、
コンピュータ容量や、ソフト性能も含め、まず再生が不可能。
つまり単に聴くことさえままならないのだ。
Londonでも、ヱヴァと同数のトラック使用を常とするハリウッド大作の音楽制作が日常的に行われている
AirかAbbey Road Studiosでないと再生不可能なのだから、当然といえば当然だ。
かくして、本編制作基地「カラー」からもほど近い鷺巣のスタジオにて、
ヱヴァ音楽のあらゆるミックス作業が行われるのである。
もちろんParisでも、Londonでも、鷺巣のスタジオならば作業は可能だが、
なにしろ、カラーまで至近距離なのだから、監督もすぐ来られる。
あたりまえの「定石」である。